ここいらへんのこと1

私がここに越してきた頃は、なまこ壁の施された建物が
今より多かった。

静かな昔ながらの住宅地だから、ここが変わることなどないと思っていたのに
その気で歩いてみたら、あったはずの建物はいつの間にかなくなり、こじゃれた今風の家に替わっていて・・・

住む人が年を取ってその家を離れてしまうと、家も急速に年をとるようで、維持するより更地にして、新しい住宅や駐車場にしてしまったほうが使い勝手がいいというものだろう。
ここいらあたりは、近隣の学区に比べて高齢化率が高い地域である。
あと10年もしたら、この風景はなくなってしまうかもしれない・・・と思ったので、撮ることにした。

なぜか、古い建物に惹かれる。
崩れそうな状態だと、お宝を見つけたくらいわくわくする。そこまでいかなくても、年季の入った木製の窓枠など見つけたら、いつまでも眺めていたいと思うくらい。でも、「ここいらへんのこと」の記事のために

写真を撮っていると、怪しい人のようにまじまじと見られることが何度かあった。いつまでも人んちの窓を眺めていたら、それこそ通報されかねないかも。。。

「昭和っぽい」じゃなく「昭和そのもの」
モルタルの壁に木製の窓枠。通るたびに「ここ、いいな~」と見とれてしまう。いつまでもここにいてほしいと思う。鑑賞どころ満載の田中アパート。

いつの間にか新しい家に替わってしまったが、気になる家があった。
googleのストリートビューによれば、2013年までは存在している。
川の上にせり出すように作られた、木製の縁側のようなスペースを持つ家。
縁側はかなり傷んでいた。
下から縁側を支えるように、数本の木でできた支柱が、用水路の底に向かって伸びていたが、
水に濡れるせいか、私が気づいたころには、すでに支柱はところどころ腐って危険な状態になっていた。
その縁側の上で、古い三輪車や物干し台が雨ざらしになっていた。
そんなものが置かれているくらいだから、かつてここは人が立ち、歩いたのだろうが、
そこに通じる出入口らしきものはなかった。
入口がなくなろうとした時ですら、
三輪車と物干し台は、思い出してもらうことがなかったのだろう。

「いつか崩れる。きっと。」
通るたびにドキドキする光景だったが、気づいたら崩れるどころか、家ごとなくなっていた。
あ~、なんというか・・・・残念。
なんで撮っておかなかったんだろ・・・
今はただただ悔やまれる。

        書いた人:たぐちりつこ

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ここいらへんのこと