田中アパート
月刊ひとてま堂の記事を書くために、田中アパートの大家さんに取材をした。
場所は「ヘアメイクサロン・アネモネ」。
9月の「ここいらへんのこと」に田中アパートのことをちらっと載せたら、
あの建物はアパートとしてあの場所に建つ前、別のところにあって、違う使われ方をしていたという情報が入ってきた。
これは、昔っからここいらへんに住んでいる人にとっては、「そんなこと、知ってま~す」な話なのかもしれないが、私のようによそから来て、たかだか30年ほど住んだだけの住人にしてみれば、結構な「へぇ~!」だった。

ところで、なんで取材場所がアネモネだったかというと、大家さんの家とアネモネが近かったから。「もしかしたら、お客さんかも?」と思って聞いてみたら、当たりだったというわけだ。
さすがに飛び込みのアポなし取材は、私でも勇気がいる。
アネモネにお願いして、大家さんがお店に来られる日に合わせて出かけていき、後ろでお話を聞かせてもらうことにしたのだ。
(余談だが、私のヘアスタイルもアネモネ仕立てである)
大家さんの昔話は実に面白かった。
田中アパートの成り立ちもそうだが、今は希薄になったここいらへんのご近所付き合いが、昔はとても豊かだったこと、それがとても楽しかったことが生き生きと伝わってきた。
私は、ますます田中アパートが好きになったが、「書いてもいいですか?」という質問には「だめ。」ときっぱり断られた。
「あんただから教えてあげたのよ」
この一言は私には大変うれしかったが、それゆえ残念だけど書けなくなった。
「ええやんか、田中さ~ん!」と思ったが、女どおしの約束である。
ここは守らねばなるまい。


美に対する感覚は人それぞれだと思うが、私はこの古さ、たたずまいが好きだ。
なにせ昭和から時間が止まっている。
ここで、その魅力を伝えることはできないが、
「だれかアーティスティックな使い方をしてくれる人、出てこないかな~」と、ひそかに(強く)願っている。
・・・ずっと残ってほしいから。
書いた人・たぐちりつこ