確かに感じているけれど、自分ではこれだという言葉にならなかった感覚、それを表す語が辞書に載って数年が経つ。
【エモい】(形)〔俗〕心がゆさぶられる感じだ。(中略)古語の「あはれなり」の意味に似ている。『三省堂国語辞典』
「面白い」でもない、懐かしいや寂しいを加えても言い尽くせない心持ち。語釈に「あはれなり」に似るとあるのを見て、「これ!私の心持ちはエモいだったんだ」と膝を打った。
私が住む倉敷市南西部は、「あはれ」という言葉が生まれた上代(文学史で奈良時代頃までのこと)、すでに都に知られた土地だった。遠浅の海に、小さな島が偶然ぽこぽこと集まっていたこの辺りは、昔から相当「エモかった」のだろう。その自然と人の営みが織りなす湊(みなと)の情趣を詠んだ和歌がいくつも伝わっている。
この連載「あはれとエモいのあいだ」というタイトルには、上代から現代まで続く長い時間という意味を込めた。その時間の流れの中で揺れ動く「今の自分の心持ち」を詠んでいけたらと思う。
澄月に時空を超えていいねするあはれでエモい湊なりけり
※澄月(ちょうげつ)は1700年代に活躍して和歌四天王に数えられた倉敷市玉島出身の歌人。
書いた人・やすはら りの
ブログ「たましま日和」
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