日常に短歌(3)

近所に珈琲店ができた時、長年の野望を叶えるチャンスが、とうとう来たと思った。私の野望は、『喫茶店開店当初からの常連』になることだ。

例えば、カウンターに人知れず(つまり勝手に)自分の指定席を持っていて、いつも新聞を読んでいる客。例えば、挨拶もそこそこに「いつもの」(つまりそれしか頼まない)の一言で注文が通じる客など。小説やドラマに登場する、あるいは実際の店で目にしたいわゆる『常連客』というものに、私はずっと憧れてきた。それも『開店当初からの常連客』に。

しかし、遠くの店に通う気力を持ち合わせていない私には、自分の生活圏に新しい店―しかも居心地のよい店―ができなければ、機会すら巡ってこない。そして、過不足なく一分一秒という時間を、過不足なくかけることが必要なのだ。大げさでなく。

オープンから三年が過ぎ、歌に詠むほどには馴染みとなったが、野望を遂げるのはまだまだ先だ。果たしてどれほど時間をかければ『常連客』と言えるの知らないが、楽しみに通い続けたい。

年若の喫茶店主が本閉ぢて「いらっしゃいませ」とカウンター越しに

書いた人・やすはら りの
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